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名古屋高等裁判所 昭和24年(控)1387号 判決

被告人

鄭錫圭

主文

原判決を破棄する。

本件を名古屋地方裁判所に差戻す。

理由

弁護人梅山実明提出の控訴趣意書の要旨は

被告人に対する窃盜被告事件の控訴趣意は原判決は事実に誤認あるのみならず訴訟手続にも違反あることを主張するものである。

即ち原審引用挙示の証據は総て間接証據にして此等証據を綜合勘案しても被告人鄭錫圭が前掲第一、第二の犯罪を而も外二名の者と共謀して之を敢行したものとは到底認むることが出來ないのである。

加之原判決挙示の証據中(五)の八橋文子に対する司法巡査作成の供述調書は原審公判に於て立会檢察官が証據として提出しなかつたことは公判調書に依り極めて明白である然るに此提出しなかつた証據即ち適法な証據調をしてない証據を採つて以て被告人鄭錫圭を断罪する資料とされたのは明かに訴訟法を無視した手続と信ずるのである。

以上の理由に依り原判決を破毀され被告人鄭錫圭に対し無罪の判決を仰かんが爲め茲に控訴の趣意を開陳する次第である。

と謂ふにある。

依つて記録に基き審按するに原判決書の記載に依れば原審は本件の犯罪事実を認定した証拠として原審証人高見乙二郞の証言を引用挙示してあるが翻つて原審第二回公判調書中同証人の供述記載を看ると該供述は愈光烈の供述を其内容とするものであつて明に刑事訴訟法第三百二十四條第二項に該当するものであるから同法第三百二十一條第一項第三号又は同法第三百二十六條所定の手続を履踐しなければ断罪の資料として採用することのできない性質のものである。而も其余の各証拠と対比するに前記証人の供述は本件犯罪事実の認定上極めて重要な部分を占めるものであることが認められる。依つて按ずるに数個の証拠を綜合して犯罪事実を認定した場合に於て其中の重要な部分が証拠能力を有せず又は適法な証拠調の手続を履踐せなかつたときは結局判決に影響を及ぼすべき採証法則の違反あるものと断定せざるを得ない。然るに原審公判調書を通看するも原審は前記高見乙二郞の供述を適法な証拠調を経ずして直ちに断罪の資料としたことが認められるから叙上の理由に依り結局原判決は判決に影響を及ぼすべき採証法則の違反あるものである。

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